第36回 「雨でも」
部屋の中ではたばこを吸わないルールを課してるので、雨の中濡れないように外でたばこを吸ってたら、ちゃりんこに乗って人がやってきました
別の部屋に住んでる人かしら
まだ火を点けたばっかだし、部屋には戻れないし、気まずいと思いつつ軽めの会釈でたばこを吸い続けます
するとその住人らしき人はインターホンを押しました
住人じゃなかったみたい
住んでるマンションはインターホンにモニターがついてるので、休日の午後3時、合羽を着て無言で突っ立ってる人が映ったらもし中に居ても出ませんわ
安の定住人は出てこなくて、何故か私に近づいてきて「あの……、ご存じかもしれませんが聖書という本がありまして」
いや聖書を配ってる人かい
雨の中、合羽を着てちゃりんこに乗って聖書を配ってるんかい
いつもなら適当にあしらっちゃうんですが、この気温が低い雨模様というフィールド、わざわざ合羽を着てちゃりんこ移動というシチュエーションに、あの鬼軍曹と呼ばれた私でさえ思わず「へぇ……」とチラシを受け取ってしまいました
いや別に雨の日くらいお休みしたって罰当たらんでしょ
私がもし神様だったとしても「雨でも風でも配り歩かんかい」とは言わないよ
その配ってる人は、あの冷血サイボーグと呼ばれた私から見事「ご苦労様です」の8文字を引き出し、ちゃりんこに乗って颯爽と帰って行きました
こんな日でも配り歩くその姿には感心しますが、ただマンション6部屋あって1部屋しかインターホン押さないってのはどうなの
私がもし神様だったら「せっかく来たんだから全部屋インターホン押さんかい、数打ちゃ当たる数打ちゃ当たる」とお説教するかもしれません
ちなみに、貰ったチラシはすぐヤギに食べさせました