第66回 「焼肉の口」
先日、ふと「焼肉の口」になった
ときどき、自分が今日「何を食べればいいか」分からなくなるときがある
「いや、別に食べたいもん食べりゃあいいじゃない」とあなたは言うが、私はその「食べたいもん」が分からない、ていうか「食べたいもん」がない
こういうとき、「誰かがそばにいればいいなあ」と思う
ご飯を作ってくれる彼女がいれば作ってくれたものを食べるし、作ってくれない女を捕まえたとしても「あれが食べたい、これが食べたい」って言ってくれると思うから、非常に楽
そのくらい、私は「食」に対して興味がない
そんな私がふと「焼肉の口」になったもんだから、これは「焼肉を食わな!」と駈け出して近所のスーパーへ行った
「あれとこれとを100gずつ」とイメージしてスーパーに行ったのだが、まず100g単位でお肉なんかそうそう置いてない、まして焼肉で食べる肉なんてなおさら
カルビもバラも豚トロもタンも、だいたい300gくらいから売っていた
「独り焼肉」に対しての世間の風当たりはまだまだ強いんだなあとしみじみ思う、こんなに食べたら「独り焼肉独りゲロ」だ、ゲロったときは絶対に誰かに背中をさすってもらいたい、独りゲロの情けなさで追いゲロしてしまう
口はもう「焼肉の口」だったので、とりあえず100gくらいから置いてあった鶏の胸肉とウインナーをカゴに入れてしばらく店内をぷらつき、もう一度冷静になってカゴを見たら「このチョイスは焼肉ではなかった」
せめてもも肉だろ、そっと胸肉とウインナーを棚に戻す
パッサパサの胸肉をほおばり、パリッとしないタイプのウインナーにかじりつきながら、これを「独り焼肉だ!」と言い聞かせる自分の画は、まさに日本の妖怪のそれだ、とても見ていられない
結局「独り焼肉」は諦めウイスキーのボトルと炭酸水を2本買った
他のスーパーへは行かず、「もういいや」ってなってしまいウイスキーを買って「独り酒」、走り屋も息を飲む急ハンドル
ベビースターをつまみにハイボールを飲んでいたら、ちょっと前まで「焼肉の口」だったことなんて忘れていた、そもそもホントに「焼肉の口」だったのだろうか
そのくらい、私は「食」に対して興味がない