第68回 「納涼船」
先日、バイト先の人たちと東京湾納涼船に行ってきた
納涼船に乗って東京湾をぐるっと巡り、乗船中はお酒が飲み放題、船内にはDJブースがあったりしてちょっとしたクラブのようになっている
私は今回で2回目、前回は調子に乗って飲み過ぎ、2軒目に行った新橋の居酒屋のトイレで居眠りをこいてしまった
一段上がるタイプの和式トイレでその段差に腰掛け居眠りをこいていた、潔癖症が聞いて呆れる
いつまで経っても私が帰ってこないので心配したバイト先の店長が、居酒屋の店員さんに頼んでマスターキーを使ってトイレを開けようとした瞬間に私が出てきたらしい
マスターキーで開けたトイレの中で私が居眠りをこいている、こんな恥ずかしい話はない、絶対に孫の代まで語り継がれる
だから今年は綺麗に飲もうと決めていた
乗船中は飲み放題だが食べ放題ではない、金券を買って交換するという花やしきシステムなので、もったいないからと乗船前におそばを食べることに
去年はここでお腹減ってないからとバイト先の人と並盛のざるそばをシェアするという、財布には優しいが体には悪い行動をとってしまったのでひどい目に遭った
だから今年はちゃんと1人前食べる
悩みに悩んで生姜たっぷりの薬味そば、こんなときばっかり健康を気にするな気持ち悪い
そばを食べ、乗船前に1本缶ビールを空けて、ああだこうだしていたらあっという間に出航の時間
何百人という人がぞろぞろと乗り込んでいく、非日常を感じてしまったのか「よくこんなに人が乗っても沈まないよなあ」とアホみたいなことを呟いてしまった、あのときの私は船をエレベーターか何かと勘違いしていたようで非常に恥ずかしい、周りの人たちの耳に入っていないことを祈る
いよいよ出航
東京湾から見える夜景と潮風が心地よくて、嫌なことなんて本当に忘れてしまう
終始口を開けたまま、「いやたまんねぇなあ」と東京の夜空を見上げていた、本当に田舎もんの悪いとこが全部出ている
乗っている人のほとんどが若くみんな浴衣を着ていて、女の子なんて特に2割増しに可愛く見えた、ただそうでもない女の子の浴衣姿ほど悪目立ちするものはない、なぜストッパーを連れてこない
男2女1のグループが私たちの近くにいた、学生丸出しの私服の男と浴衣の男、そして浴衣の女
しばらく見ていると、私服の男は浴衣の女に完全にほの字だということが分かった
懸命に話を盛り上げたり、飲み物を取ってきたり、しかし浴衣の女はつれない素振り
勇気を出して、私服の男はちょっと強めに浴衣の女にツッコミを入れ距離を詰めようとしたが、スベって失敗に終わった
ていうか浴衣を着ていない時点でもうお前ではない、残念だけど浴衣の男が全部持って行く、人生とはそういうものです
私もちょっとロマンスを期待したが、そんなものは一切なかった
苦し紛れに船内をウロチョロしたり、喫煙所で独りたばこを吸ったりしてみたが、何の音沙汰もない、デッキへと戻る後姿が非常に寂しく見えたと思う
ただデッキの手すりに寄りかかって夜景を眺めていたら、隣に女の子のグループがやってきて近い距離で夜景を眺め始めた
お酒も入っていて、夜景なんて頭に入ってこず、「いやもう肩当たってますやん」と童貞みたいな思考になっている
小声で「(夜景が)たまんねぇなあ」と仕掛けてみた、特に反応はない
すると向こうが独り言のように「あれ、UFOじゃない?」と呟いた、これは完全に仕掛けてきている(と思う)
しかし最後の一撃が撃てない私は聞こえないフリをしてしまった
「UFOなんているわけないじゃない」、なぜこの一言が言えなかったのか、このクソ童貞野郎が
東京の夜景が私のことを笑っているようにキラキラしていた
気づいたらハイペースでビールを飲んでいた
結局、2軒目に行った有楽町の居酒屋でふぬけになってしまい、注文したアセロラサワーも飲みきれず、バイト先の人に飲んでもらう始末
今年も綺麗に飲めなかった、綺麗だったのは東京湾の夜景だけ