第87回 「馬のエサ」
昨夜、深友から突然連絡があって、今日は大井競馬場に行ってきた
新宿のウインズという場外馬券場には行ったことがあったが、ちゃんとした競馬場に行くのは初めて
競馬場に行く時に最も必要な「お金」は無かったが、昨今の競馬ブームからくる「ミーハー」はメチャメチャあったので二つ返事でオーケーした
大井競馬場は浜松町からモノレールに乗った先というメチャメチャ遠い所にある
何故か今日は浜松町までが特に長く感じ、その理由は「品川の次だと思っていた浜松町が田町の先だった」という、とてつもなくしょうもないものだった
そして「交通費は絶対に取り返してやる」という、とてつもなくしょうもない野望も燃えていた
自ら進んで行っているのだから「取り返してやる」もクソもない、放っておくとすぐ心いと小さき人になってしまう
深友と待ち合わせ、大井競馬場の中に入る
まさか入場料を取るとは、交通費も合わせるとこの時点で結構マイナスになっている、これは勝つしかあらへんがな
到着も早々に馬券を買うことになった
しかし私は競馬の知識が「ダービースタリオン」で止まっている、競馬場の人間からしたらあの場で一番のカモだ
そんなカモが何の根拠も無いのに「このレースは荒れるな」とかほざいてみる
冷たい風がピュウと吹いて、競馬場に潜む何者かから「あ、そういうの要らないから」と説教のトーンで言われたような気がした
実際に生で競馬を観ると迫力が凄くて、地面を蹴りつける馬の足音やら砂埃やら、順位そっちのけで観入ってしまった、とても感動した
メチャクチャ感動したけど、負けてしまった
流れる涙は感動の涙か敗北の涙か、それはご想像にお任せします
とりあえず、私のなけなしのお金は馬のエサ代となって消えてしまった
あと、意外と女性が多くてビックリした
競馬場をデートで使うカップルもいるとは聞いていたが、カップルもそうだし、女子会みたいな感じで来ているグループもたくさんいて、歯抜けジジイなんてとんでもなかった
女の子ってだけで、缶ビールを飲みながら競馬を楽しむ姿もそれはそれは画になってしまう
まあ、そもそも発泡酒を飲んでいる女の子なんぞ確認はできなかったが
もれなく皆、期間限定のよく分からないオシャレなフレーバーのビールを飲んでいた
ワンカップを飲んでいた人も、少なからず「ちゃんと」いた
競馬場はやっぱりこうでなくっちゃ
第86回 「やきそばパン」
とある用事で私は吉祥寺にいた
財布の中に100円しかなかったのに私は吉祥寺にいた
25年間生きてきた私の経験上、財布の中に100円しかない人間は吉祥寺にいません
祝日だし、手数料でお金を持っていかれるのはシャクなので、お金は下ろさず週末を生きていくことになってしまった
さて、どうしたもんか
寒空の下、スマホで「100円 ご飯」というめちゃくちゃ寂しいワードで検索を掛けるが、全然良いページがヒットしない
直接聞きに行った方が早いのだが、「ヨドバシ 吉祥寺 食料品」というポイントで買う気満々の寂しいワードも全然情報がヒットせず、結局30分検索し続けた挙句、近所のスーパーで70円の食パンと20円の焼きそばを買って家に帰った
返せ、時間とプライドを
焼きそばを炒め食パンに挟む「男の焼きそばパン」で今晩は終了
しかしちょっと味気ないので、100均で買った木のまな板を使い断面を上にして盛り付けたら、まあまあ見た目が良くなった
もうランチパックの焼きそばのやつを一口食べたときに現れる断面のそれだ
真っ直ぐには切らず、ちょっと斜めに切ってみちゃったりして
テンションが上がっている自分に腹が立った、こんなんでいいのかと
食べた後の「はいはいはいはい」で我に返るのに、案の定「はいはいはいはい」の味だった、不味くはないんだけど
欲を言えばマヨネーズをパンに塗りたかった
片手で握り潰せそうなくらいの小さな小さな欲
第85回 「浄化」
自販機補充の横乗りのバイトばかりしている
何回か入ってみて、やっと当たりドライバーはずれドライバーが分かってきた
まず歩いているお年寄りに悪態をつくドライバーははずれ、というかそんな人間はそもそも人としてはずれだ、お前もいつかああなるんだから
あと運転がへたくそな他のドライバーに舌打ちを連発するドライバーもはずれ、いや私の姿が見えていないのか
先日もドライバーに仕事が遅いと思われたのか、隣で何回もデカいため息を吐かれた
「いやここの業者は初めてなんだから大目に見てよ~」と欽ちゃんの如くふにゃふにゃをかましたのに、全く響かなかった
「まあドライバーさんも毎回初めましての人が多いんだから仕方ないか」と言い聞かせたが、2日も経てばそんなことは忘れてしまう
イライラが込み上げてきて、「ああ何て情けない」と自分にがっかりしてしまった
打って変わって今日のドライバーは神様のようだった
仕事はほとんど独りでやるし、私はほとんど助手席で待機
そんな私に嫌味一つ言わず、おまけにジュースまで頂いて、挙句終了の2時間前に「もう帰っちゃっていいよ」と早上がりにしてもらった
そんなことあるのかと思いながらも、「ああ、何か腐っていくなあ」とも思った
何もしない、しかしその場には居ないといけない、まさに時間を売っているという感覚
決まっていた解散場所とは1つ2つ離れた駅でさよならしたのだけど、ずっと座っていたし、時間も余ったので歩いて帰ることにした
徒歩30分強、初めて歩く都会の中に流れる川のせせらぎを耳にした
落ちる夕陽、川のせせらぎ、何か、よくないですか?
第84回 「マスカット」
先日、バイト先で黄緑色をした大きい粒のタイプのぶどう、マスカットを貰った
果物なんてまずスーパーで買わないので食べる機会はほとんどない、と言いながら今年に入って行商人から柑橘物を2回買わされている、もう買った柑橘物の名前され忘れた
そしてマスカットなんてもう何十年も食べてないので、食べ方も忘れている
「これ皮もイケるやつだっけ?」とすぐスマホで検索しようと思ったが、すぐスマホで検索したら何か負けたような気がするので、皮ごと食べた感じで判断しようと思った
結果はグレーだった
ちょっと口に皮が残ったけど、「これがマスカットの本当の食べ方ですよ」と言われればそんな気もする
しかし、私はみかんの白い筋も取らないと気が済まないので、今回は皮を剥いて食べることにした
1房全粒皮を剥いて食べるとなると、それはそれでめんどくさい
汁も手に付くし、お手拭も汚れるし、あーあ、皮ごと食べりゃあよかった
あと久し振りにマスカットを食べたら、凄い腸が綺麗になっていくような気がした
腸内環境に良い効能、たぶんマスカットにあると思うのだが、すぐスマホで検索したら負けたような気がするから、真実は知らないまま生きていくことになりそうだ
第83回 「青看板」
最近、中野まで自転車で行くことが多い
私の住んでいる所から中野まで自転車で行くと1時間強かかってしまうが、交通費を節約するため、やむなく自転車で行っている
「やむなく」だ
「健康にも良いし」だの、「涼しくなってきたからちょうどいい」だの毎回毎回言い聞かせているが、電車に乗れるなら電車に乗って中野まで行きたい
中野まで自転車で行けば煙草が1箱買えるから、今日も私は自転車に乗る
色々なルートを試してみた
ナビタイムでルート検索すると色んなルートが出てくるのだが、今まで一度も提示されたルートで行けたことがない
どこかで絶対迷う、「そんな道本当にあるのか」と疑ってしまうほどだ
毎回毎回、迷ったら大通りに出てホッと一息、そして青看板を見間違えてまた迷う、これの繰り返し
実家に居た頃、親の運転する車に乗っていたときは青看板のことなんてナメくさっていた、「こんな看板誰が見てんだよ」と、「カーナビあるんだからこんなもん要らねえだろ」と
今、メチャメチャ青看板にすがっている
ただあのときナメくさっていたツケが回ってきたのか、見間違って明後日の方向に行ってしまう
青看板ごめんなさい
ただこんなに苦労して買った煙草はメチャクチャ美味しいので、今日も明日も明後日も私は自転車に乗る
第82回 「雨音は聞こえない」
朝、寒さで目が覚めた
昨日家に帰って来たのが24時前、昼間の暑さが部屋中にこもっていたので窓を開けて寝ることにした
入ってくる風が気持ちいい、部屋の温度に対してちょうどいい温度の風
明日朝から雨が降るのは分かっていた、気温もめちゃくちゃ低くなることも分かっていた
結果、寒さで目覚ましより1時間半早く起きてしまった、舌打ちも凍るほどの寒さ
二度寝顔はしかめっ面だったと思う
昼間はいつも通りバイトだった
家に帰って来て、煙草を吸おうと外へ出たら向かいの家の玄関に女子中学生が一人
「ああ、もう下校の時間かいな」と時の経つスピードに呆然としながら煙草を吸っていると、「ドン! ドン!」と何かを叩く音が聞こえてきた
音のする方に目を向けると、その女子中学生がひたすらに玄関のドアを蹴っている
トーキックの音量だ、人生の中でサッカーに充てた時間はほんの数十分しかないが、「トーキックはめちゃくちゃ痛い」というのは覚えている
たぶん鍵が無くて、家の中にいる誰かに気づいてもらおうとしてドアをトーキックしているのだろうと思った
ピンポンを鳴らせよ、っていうかこのご時世小学生でもスマホを持っているのだからスマホを鳴らせよ
トーキックしなければいけないほど追い込まれているのかと心配になってしまった
閑静な住宅街に響くドアをトーキックする音、思っているより周りに聞こえる
もっと落ち着きなさい、「今すぐどうぶつの森をやりなさい」と3DSをプレゼントしてしまいそうになった
何回かドアをトーキックした後、ぬっとドアが開いて結局その女子中学生は家の中に入れた
いや家の中に誰かいたんかい
ただ血の気の多い女子中学生だっただけかい
第81回 「旧友」
小中学校の同級生と飲みに行った
未だによく遊ぶ地元の同級生がいて、元々はそいつと東京競馬場に行く予定だった
そしてそいつが他の同級生を連れてくるってんだからガクブルが止まらない、何せ中学校の卒業式以来会ってないのだから
久しぶりに会う同級生たちは中学校時代まあまあの仲だったのだけど、この10年弱でその仲の良さの貯金はゼロになっている、これほど恐いものはない
結局急な用事ができてしまい、私は競馬場には行けずその後の飲み会から途中参加になった
新宿アルタ前で同級生たちを待つ
あの「笑っていいとも!」がやっていた場所の前で待つなんて、中学生時代の私からしたら考えられない
ちょっとしたワクワク感と緊張感で死にそうになった
集合時間を過ぎた頃、チラッと周りを見たらそれらしき連中が目に入った、っていうかたぶんそれだ
私は待ち合わせで先に着いて相手を待つ立場になったとき、向こうから相手がやって来るのに気づいても、自分から「ここにいるよモーション」を起こすことができない
「おーっす!」と手を挙げながら相手に向かって行くことがちょっと恥ずかしい、だから先に気づいても「気づいてないフリ」をして相手から声を掛けてくるのを待つ
「待ってました! 楽しい夜にしようぜ!」感を出すのが苦手だ、凄い楽しみにしてたけども
同級生たちはまんまとその罠に引っかかった
しかし不思議なもので、10年会ってなくても一瞬であのときのポジションにスッと納まる、いじる奴いじられる奴、2日ぶりに会うみたいだった
特に会話が詰まることも無く近くの居酒屋に入る
雰囲気はあのときのままなのにみんな煙草を吸うしお酒も飲む、パラレルワールドに迷い込んでしまったみたいだ
仕事の悩みの話になったときは、いよいよ出られなくなってしまうんじゃないかと思った
しかし私は未だにバイト生活なもので、大したアドバイスもせず延々とみんなの話を聞いて吸収していった、さて、どこで吐き出してやろうかな
21時前になって一人帰り、残った奴らでビリヤードに行った
それはそれは素敵な時間だった、久しぶりに良い時間を過ごさせてもらい、良いお金の使い方をした
こんなに楽しかったのに、また明日も会いたいと思わないのは何故だろうか
そりゃ小中とほぼ毎日のように顔を合わせてたらそりゃそうか
もうすでに人生で顔を合わせる回数が決まっていて、「それに合わせて私たちは動かされているのだろうな」と難しいことを考えてしまった