第50回 「七夕」
派遣バイトのお話の続き
猿でもできるような仕事が続き、こきにこき使われた初日、お泊りするホテルでチェックインしようとすると「お連れさまがすでにお部屋に入っております」とのこと
名前を聞いたところで誰だか分からない、お部屋に入って初めてご対面する訳で
「どうか変人奇人に当たりませんように」と願ってホテルのドアをノックします、その日は偶然にも七夕、短冊持ってくればよかったな
あとデリヘル嬢っていつもこんな気持ちでノックしてるのかな
ドアの向こうから出てきた男は年の頃30代半ば、物静かで気の弱そうな感じ、ひょこんと顔を出し「あ、こんばんわ……」と呟きます
当たりだ、おじさんばっかの中で私の次の次くらいに若い人、当たりだよ
チェンジされなくてよかった、織姫と彦星は出会えなかったけど、私は当たりの人間に出会えたよ、皮肉ですね
と思ったのもつかの間、どこでスイッチが入ったのかあんまりよく覚えてないんですが、まあその当たりの男が喋るんですよ
今まで喋ってこなかった分をここで取り返してやろうといわんばかりの言葉の速射砲
リロードがバカみたいに早ぇ早ぇ
もちろん私は最低限の情報しか公開しません
ひたすら相手の言葉の銃弾を体に浴び、アメリカのアニメに出てくるチーズみたいになっちまいました、穴ボコボコ
すぐにでもシャワーを浴びたかったんですが、一番風呂は当たりの男に差し上げました
そして私の番、バスルームの扉を開けるとそこは広々としたユニットバスでした
結構きれい目のホテルだったんでまさかユニットバスとは思わなかった、思わな過ぎて「いやUB(ユービー)かい」って言いそうになりました、てか言ったと思うたぶん
シャワーもそこそこに一服して寝ようかな、なんて思ってたら、当たりの男がベッドに腰掛けてこちらに機関銃を向けてるではないか
いやまだ喋るんかい
こういうの初めてなんか、修学旅行行けなかったんかお前さんは、もうハズレだよこの人
当たりの皮を被ったハズレ、当たズレだよこの人
何とか数分でおねんねしましょうに持ち込んで事なきを得ました、下手したら寝ないで語り明かすところだったよ
22時半就寝、翌3時起床予定、おやすみなさい
翌24時半に1回目が覚める、いやいびきも半端ねぇのかよこいつ
いびきに吸い込まれてしまいそうなくらい半端ないいびきでございました