第78回 「待機」
配送ドライバーの横乗りバイトをしてきた
主に自販機の補充や駐禁対策、ゴミ箱の清掃と力自慢ではない私からしてみれば天国のような内容で、時給1000円交通費支給ときたもんだからこれは行くっきゃない
しかも蓋を開けてみれば実労働の半分は待機だった
楽な仕事なんてこの世には無いと言うが、探せばある、楽をするなと私は言いたい
集合時間の10分前に担当ドライバーに電話をしたら「あと20分くらいかかるんで待ってて」と言われた
はいはい、派遣には慣れっこなのでビクともしない
派遣バイトをするときは、その職種を検索して先人たちの体験談に目を通すようにしている
するとカキコしている先人たち全員が「ドライバー次第」と言っていた
まあ、そりゃそうか、おっかねえドライバーが担当だったら嫌だもんな、ていうかドライバーってみんなおっかねえイメージなのだけど
行きたくなくなった、ゆとりの悪いところが存分に出ている
ビクビクしながら待っていたら、目の前に1台のトラックが横付けされた
顔を出したのは物腰柔らかそうな男の人で緊張が一気にほぐれた、当たりのドライバーだ
これは別にフリでも何でもなく、本当に当たりのドライバーだった
車線ギリギリで走っているタクシーの運転手に向かって、小声で「バカなんじゃねえかこのジジイ」と言っていたこと以外は本当に当たりだ
多分本人は私に聞こえていないと思っている、そんな声量だった
作業内容を教えてもらい、とりあえず車内で待機
ドライバーが帰ってきたら、持ってきたゴミを分けて余った商品を元あった場所に戻す、そして次の現場へ移動、待機の繰り返し
今日はほとんどドライブのようなものだった
都内をドライブすることなどあまりないので新鮮だった、窓から入ってくる風が心地良い
ドライバーの運転も素晴らしかった、まさかセンター街をあんなに軽やかに進んでいくとは、「風の谷のナウシカ」よりもいいものを見た
ただ一つ、待機の時間がとても退屈だった
今日はネットニュースも見飽きた、ネットニュースを見飽きることなんてあるのかと自分でもびっくりしている
だからもう、歩いてる女の人のおっぱいを見ているしかなかった、それしかなかった
おっぱいの大きい女性はちゃんとニットを着ていて、そのフォルムを際立たせていた、都市伝説だと思っていたのに
お金も貰えておっぱいも見れて、非常に良い一日だった
ただ、死ぬときに今日のシーンが走馬灯に現れることは絶対にない、絶対に
第77回 「残尿」
まだ25歳なのにこんなこと言いたくないのだが、最近残尿が酷い
パンツは毎日シャワーを浴びるときに換えるのだが、昨日は残尿が酷くてパンツが 思った以上に濡れてしまい、仕方なくシャワー前に換えてしまった
分かりやすく言うと、昨日はパンツに北海道が浮かび上がっていた
昼間にパンツを換えるあの時間ほど虚しいものはない、その虚しさを埋める為に北海道パンツは大きく振りかぶって洗濯籠にぶち込む
相談した人にはもれなく全員から「泌尿器科に行け」と言われる
「何だよ、私の知らないところで口裏合わせしてんのか」とすぐ世にも奇妙な世界に迷い込んで、お金が無いという理由から逃げるようにしている
しかし最近はちょっと行った方がいいんじゃないかと思うようになってきた、それくらい残尿が酷い
25歳にもなってこんなこと言いたくない
「私、これで残尿がなくなりました」をたくさん試したのだが、一向に残尿はなくならない
唯一、残尿を極限までなくす、用を足した後にペーパーで先っぽをチョンチョンする技に辿り着いた、ただこれでもまだ完全にはなくならない
10チョンチョンしてもちょっと残るし、勉強して11チョンチョンしてもまだちょっと残る、このまま行ったら私はトイレから一生出ることができなくなってしまう計算だ
だからもう諦めた、ペーパーが勿体ないので今は2チョンチョンで諦めている
バイトしかしなくて、死んだときに思い出したら人間として何も残ってない日でも、尿はきっちり残る
尿がピンク色だったらちょっとは華やかなのに
黄色って、しかもくすんだ黄色って、嫌だなあ
第76回 「ゲーム」
ここ数日ゲームばかりしている
1年くらい前に思い立ってネットで「ドリームキャスト」を買った、家にはゲームが「ドリキャス」しかない、2017年10月現在の話
やりたいソフトがあったので特に下調べもせずに買った結果、「ビジュアルメモリ」というメモリーカードがないと遊べないということが「ドリキャス」が届いた後に分かり、血眼になって近所のリサイクルショップを回ったことを覚えている
結局どこにも置いてなくて仕方なくネットで買い、ドリキャスやりたい熱が下がってきた1週間後にやっと遊べて、数日でクローゼットに閉まった
ここ最近はどこかに出かけるのも億劫で、且つお金もないのでドリキャスを引っ張り出して遊んでいる
私は「不思議のダンジョン」シリーズが好きで、シレンやらトルネコやらほとんどのタイトルをプレイしてきた
中でもドリキャスの「アスカ見参」というシレンのスピンオフみたいなゲームがあって、これがまあファンの間では名作と呼ばれていて、この為にドリキャスを買った
名作と呼ばれているのも納得できるくらい面白くて、気付けばもう50時間くらい遊んでいる
このゲームはセーブデータを選ぶときにプレイ時間が強制的に表示されるので、否が応にもこのゲームにどれだけ自分の人生を使ったかが分かってしまい、ゲームを始める前に「……あ、もう50時間くらい使ってんのか……」とテンションがちょっと下がる
でも、いざゲームを始めたら5時間くらい経っている、人間なんてそんなもんだ、凄くちょろい
ちなみに実家に置いてある「シレン2」は150時間くらい遊んでいて、ここまで来るともう感慨深い、昔を思い出す為の重要なノスタルジーアイテムだ
先日は朝から夕方までぶっ通しで遊んでいて、ふと学生時代を思い出した
週2回の貴重な休みをゲームに使って親にああだこうだと言われていたあの頃、宿題もせずに「関係ねぇや」とゲームを続けていたあの頃
あの頃と全く同じ気持ちでゲームをしていた25歳の秋、握っていたコントローラーを置いて家の窓から沈む夕日を眺めていた、真昼間からお酒を飲んだときのあの背徳感に似ている
電源ボタンを押すのに少し力が入った、ドリキャスに「もうちょっと遊んでよ」と言われたような気がした
別にこんなしっぽりと終わらせるつもりはなかったと、いうことだけは分かって欲しい
第75回 「アップデート」
LINEが使えなくなった
ちょっと前から「○月○日までにLINEを最新版にアップデートしないと使えなくなりますよ」的なお知らせがあったのだけど、「期限あるったって猶予あんだろ」と高を括って無視していた
結果ちゃんと使えなくなった、こういうやつは使えなくなってから焦る
LINEを最新版にアップデートしようとしたら、「お使いの機種には対応しておりません」と門前払いだった
嘘だろ、LINEに対応していない機種なんてあるのか
ポケモンGOをインストールしようとしたときも門前払いだったのだけど、あのときよりもショックのデカさが違う
お使いの機種をお使いしている私まで否定されたような気分だ、改めてLINEって凄い存在だなと思った
どうやら端末を更新すれば最新版のLINEに対応することが分かった、なるほどそういう手もあるのか
情報弱者の私はその考え方にまで頭が回らなかった
調べた結果、私がお使いの端末は初期も初期の状態だった、よくもまあこんな状態でこのご時世生きていけてるなと思う
早速端末の更新を始めた
結果、更新もできなかった、私がお使いの端末がちょっと冷たくなった気がした、更新できないことに対しての申し訳なさが端末からも伝わってくる
しかし詰んだ、LINEが使えなくって早3日くらい経つ、しかし新しいトークは誰からも飛んで来ない、使えても使えなくても同じようなもんだ
最後の手段でドコモショップに持って行けば何とかなるかもしれないらしい
ここで詰んだらもう携帯を替えるしかない、ああめんどくせー
めんどくせーから週が明けるまでドコモショップには行きません、私はどっしりとしながらこの時代を生きている
第74回 「うちの子は」
爆裂に金欠になってしまった
「爆裂とはいえゼロではないんでしょ?」と言われそうだが、確かにゼロではない
140円だ、一時所持金が140円になってしまった、スタートしたてのポケモンのゲームよりお金を持ってない
しかし、こんなときに限ってお金が必要な案件が発生してしまう、だから人生は面白い
なんてカッコつけている余裕などなく、どうにかして4000円を生み出さなくてはならなくなってしまった
漫画を売りに行こうと思い本棚を見たが、幾ら探しても売れそうな本が無い
そうだ、私には先見の目がなかった、買い始めた漫画は大体3巻くらいで終わってしまう、3巻くらいで終わってしまうような漫画は1冊100円にもならない
ならばDVDを売ろうと思いカラーボックスを見たが、幾ら探しても売れそうなDVDが無い
そもそもDVDをあまり持っていなかった
結局3DSを売ることにした
塵を集めて山にするよりも一撃で4000円を手にしてやろう、その一撃を食らわせることができるアイテムがギリギリで3DSだった
5年前に買った一番古いタイプの3DS、自慢じゃないが大切に大切に使っていた
画面には保護フィルムを貼り、本体にも傷が付かないようにハードカバーを装着させ、それはもう過保護を爆発させていた
twitterで3DSの買取相場を調べたところ、状態が良くて4000円、悪いと買い取ってくれないところもあるらしい
ショックを受けても大丈夫なように、2500円と低く見積もってお店へと行った
200円だった
嘘だろ、思わず店員に「3DSなんですが?」と聞いてしまった、店員の顔は「知ってますが」の顔だった
どうやら「タッチペンの反応が悪い為」200円らしい、だとしても200円ってあるかよ
とてもとても大切に使っていたのに、何かこう、手塩にかけて育てた息子を全否定されたような感覚になった
「どこの馬の骨かも分からん奴にうちの娘はやれん!」と言われた我が子の親の気持ちだ
3DSを抱きかかえてお店を飛び出した、だって200円な訳ないもの
しかし200円のレッテルを貼られてしまった為、ちょっとビビりになっている
どうしても今日中に4000円を錬金しなければならない
藁にもすがる思いで別のお店に行った
お受験で入るような幼稚園よろしく、「ああ、これは親の態度も見られているな……」と思い、とても下から丁寧に丁寧に我が子を差し出した
「あの3DSなんですけど……、一番古いやつで……、買い取ってもらえますかね……」
親の態度で減額されることはこれで無くなった、あとは我が子の能力次第だ
4000円だった
4000円を受け取るときにちょっと手が震えた、ほれ見たことか、うちの子が200円な訳がない
レシートをチラッと見たら状態ランクAで買い取ってもらえたようだった、たぶんランクAは一番上だと思われる
「ほらね、あなたにはピッタリの相手が必ずいるの、ママが見つけてあげて正解だったでしょ」の気持ちになった
気持ちになったけど、このタイプのお母さんは嫌いだ、ていうか好きなやつを見たことがない
命がけで手に入れた4000円は、夜には全部無くなってしまった
4000円も3DSもあっという間に無くなる、明日は待ってくれない
だから人生は面白い
第73回 「ゴミ箱」
独りで飲みにはよく行くが、ご飯を食べにはあまり行かない
日曜の昼下がり、といっても15時前だったが、近所にバーガーキングがオープンしたので行ってきた
ショッピングモールの中に入ってるタイプのバーガーキングで、さすがは日曜ということもあってだいぶ混んでいる、それはそれは蛇のような、蛇のような行列だった
家族連ればかりで、おひとり様が並ぶのはちょっと恥ずかしかったが、同じくおひとり様の女性がすでに並んでいたので、「お、いいのがいるな」と思い私も行列に並んだ
並んでいる途中にメニューを決めようと選んでいたのだが、ワッパージュニアの姿が見つからない
祝日だからジュニアはいないのか、ノーマルバーガーの写真を見てもたぶん食えそうにない大きさ、ちょっとパニック気味になってしまった
しかし無情にも列は進む、列から抜け出そうと思ったが口はもうバーガーの口だ
仕方ない、みっともないけど大人なのにバーガーを残すか、名前も忘れたでっかいバーガーにしようと腹をくくり、「お次のお客様」と地獄へ案内された
注文しようとカウンターのメニューに目をやると、小さく小さく「ジュニアサイズ有り」と書いてあるではないか
「こんな見にくいとこに記しやがってクソが」という怒りの感情と、「ちょうどよくお腹いっぱいになる~」という安堵の感情が混ざり「ワッハージュニアのセット一つ」と「パ」の半濁音がどっかに行ってしまった
列に並んでいる時間くらいでは混雑もそんなに解消しないので、席はだいぶ埋まっていた
空いているところといえば、テーブル席に囲まれた、中央のおひとり様専用の島みたいな席のみ
席に座ったのはいいが、目線をどこにやればいいのか悩みに悩んだ
目の前に目線をやれば赤の他人と目が合って気まずいし、かといってスマホをいじりながらというも行儀が悪い
探しに探してゴールはゴミ箱だった
バーガーを食べながら、ずっとゴミ箱を観察していた
誰一人として紙類とプラスチック類は分別しない、「飲み残しはこちらへ」の中身はどうなっているんだろう
私が天才だったら、この風景から何かヒントを得てとんでもないことをしでかせたかもしれない、凡才はゴミ箱をずっと見ていても「ゴミ箱」としか思えない
第72回 「恵比寿」
先日、友達と花火をすることになっていたのだが、天気のせいで流れた
友達はもちろん男、「男2人で花火なんて」と思うでしょうが、やってみると絶対に楽しいし何より綺麗、暗闇に輝く花火を綺麗と思わない奴は絶対にカッコつけている
私もちょっと前まではそうでした、しかしハタチを越えてから、秋刀魚の内臓が美味しく感じるように花火も綺麗に見えてくる
そんなこんなで予定がボッコリ空いてしまった
もう花火の脳みそになってしまっていたので、家で大人しくしてるのも勿体ないなあと思い、運よく別の友達を捕まえることができたので飲みに行くことになった
「渋谷か新宿か恵比寿のどこかで」とLINEが来たので、迷わず「恵比寿ですね」と返した
「恵比寿で飲むとか田舎もんだよね」とボケっぽくおどけたが、実際はマジだ
恵比寿でいっぺん飲んでみたかった
金曜の恵比寿、新宿や渋谷よりは人が少ないと思ってたのだがとんだハゲだ、えらい人がいる
ただ歩いてる人は、同じ時間帯を歩いてる新宿や渋谷の人よりは民度が高い、これが恵比寿、女性は皆ストールを巻いている
さすがは花金、どこに入っても満席、予約でいっぱい、店が絶対に足りてない、店を作れ、店を
ようやく入れた、恵比寿なのに赤提灯の雰囲気のあるお店
入った時点でカウンターのせっまい狭い場所に案内され、私たちが入って満席になった
40人近くのお客さんを店員3人で回している、ホッピーを2秒で作ってしまうくらい手際が良く惚れ惚れした、その様をツマミにお酒が飲めてしまう
料理も美味しくて良いお店だったのだが、唯一、唯一注文した焼き鳥が何か教えてくれなかったのが減点ポイント
コブクロだのガツだの、調子に乗って普段食べないようなやつばかり注文してしまったので、「これが○○です」と教えてくれないと、モノを見ただけでは分からない
「何か分からねーけどすげー美味しいな」、この台詞しか出てこなかった
ああ、何かは分からなかったが、アレは歯ごたえがあって美味しかったな
2時間近く飲んで、ビリヤードをして家に帰った
恵比寿で飲んでビリヤードするなんて、高校時代の私からすれば考えられないような金曜の過ごし方だ